シュンペーターから学ぶ「日本経済の衰退や日本企業の没落」の原因とは【中野剛志】
必要なのは〝マルクス〟でなく〝シュンペーター〟
◾️ところが九〇年代に入ると、日本は自ら日本的システムを破壊し始めた
ところが、一九九〇年代に入ると、日本は、構造改革と称して、シュンペーター的な中核をもった日本的システムを、自ら進んで破壊し始めました。
しかも、その構造改革を高らかに宣言した二〇〇一年の「骨太の方針」は、シュンペーターの言った「創造的破壊」をやるのだとぶち上げていました。
もちろん、それまでの日本の経済構造や企業経営のあり方にも問題や限界があったのでしょう。時代の変化に応じた改革が必要だったのも事実でしょう。
しかし、だからと言って、シュンペーターの理論にまったく反するような改革をやることはないでしょう。しかも、そんな改革の方針を、シュンペーターの言葉を引きつつ閣議決定までしたというわけですから、これは、相当にたちが悪い。その後の日本経済の衰退や日本企業の没落は、その当然の報いだと言うほかありません。
シュンペーターに従って発展し、シュンペーターに背いて衰退した国。それが日本だと言ってもよいのではないでしょうか。
読者の中には、本書(『入門 シュンペーター』)の内容、特に第八章にショックを受けて、「私たちは、具体的にどうしたらいいのだろうか、教えてほしい」「どんな政策をやればいいのか、処方箋を提示してほしい」と思われた方もいるかもしれません。
実は、シュンペーターは、そういう「具体的な政策提案をよこせ」という性急な求めに応じるのを嫌がる人だったようです。
それは、経済理論は価値中立的な科学であるべきだという彼の信念によるものだと思われます。
また、シュンペーターの理論は、長期的かつ壮大な経済システムのヴィジョンなのであり、彼が提示している資本主義の問題は、そう簡単に解決できるような性質のものではないという事情もあったのかもしれません。
とは言うものの、本書第三章で紹介した「貨幣循環理論」、第六章で紹介したラゾニックの「革新的企業の理論」や、第七章で紹介したマッツカートの「企業家国家論」など、シュンペーターの流れを汲む現代の経済理論は、日本政府がどのような政策を行なえばよいか、あるいは、行なってはならないかをはっきりと示しているはずです。
ですから、具体的な政策を知りたい方は、これらの章を読み返していただければ、自ずと何をすべきか分かるだろうと思います。
いずれにしても、私たち日本人にとって大切なことは、シュンペーターをもう一度しっかりと学び直すことです。